登山

 俺はこの山を登り切ることができないと思っている。登り始めた、今まさに、だ。

 俺は体力に自信がない。一回り近く歳の離れた上司よりも体力がないのである。外仕事が多い職場の上司は、先日の勤務中に熱中症で倒れた。俺は外回り中に熱中症で倒れる上司よりも体力がない。上司は倒れた前日、韓国へ旅行に行っていたらしい。その旅行疲れで倒れたのではないかとお思いになられるだろうが、その韓国旅行中、古城を見学に行く道中の山登りでも熱中症で倒れたらしい。俺の心配の元となっているのは、むしろそっちだ。俺より体力のある上司が山登りで倒れているというのに、俺が倒れずに山を登れるわけがない。倒れてしまえば、山登りはそこで終わってしまう。倒れたら斜面を転がり落ちて行って、振り出しに戻るからだと言っているわけではない。そんな訳がない。山はそれほど急勾配な斜面ばかりではない。

 視線を上げると山頂はまだまだ先だ。いや、思ったよりも進んでいる。いつの間にこんなに歩いたのだろう?不思議に思いながらも歩き続ける。ああ、やはりだ。今日はいつもより歩みが早い。みるみるうちに頂上に近づいている。近づく、近づく……、…いた、ついた。着いたぞ、てっぺんだ。頂上だ。まだ進む、頂上よりたかく、上がる、上がる。おかしい。周りの山々よりも高く、俺は進む。見渡す限り俺より高いものはない。本当におかしい、どうかしているぞと足元をみると、ヤマドリだ。俺はヤマドリの上を歩いていた。大空を飛ぶ巨大なヤマドリの上を歩いていたのであった。

「ヤマドリじゃないか」

 俺は声にも出した。巨大といっても、通常より三倍ばかししか大きくない。つまりその体長は、三メートル前後だ。ずいぶん歩みが早いな今日の俺はと思っていたのが、それは高度を上げながら飛ぶヤマドリの背にいつの間にか乗っていただけで、その上をちょこちょこ、カタツムリのような歩みでいただけなのであった。

「いやにデカいヤマドリだな」

「ヤマドリですよ」

ヤマドリがしゃべった。しかも俺の言葉に答えるかたちで、だ。

「土足ですまない」

「いいですよ。外車買いたてのヤンキーじゃないですから」

 またしゃべった。しかもよくわからないユーモアを挟んでくる。

 俺は全然歩けてなんかいなかったのだ。ヤマドリの話す人語より、やはりそのことが突き刺さる。体力に自信がなかったのが克服されたと思った矢先、これだ。クソヤマドリめ。ぬか喜びさせやがって。撃ち殺してやろうと思ったが、ヤマドリは非狩猟鳥だ。いや、それは亜種のコシジロヤマドリの方であった。ただのヤマドリは狩猟対象だ。撃っていい。よし!!

「撃たないでください」

「おまえ人の言葉をしゃべれる上に、こころまで読めるのか」

「いえ、あなたが私を撃ちそうな顔をしていると思っただけです」

 うむ、なかなか鋭いヤマドリだ。その≪導く薬指の鎖“ダウジングチェーン”≫さながらの洞察力に免じて、撃つのは勘弁してやることにしよう。しかし、銃も持っていないのに顔色だけで発砲の意をくみ取るとはどういうことだろうか。そもそも狩猟免許もないというのに、俺はなぜ撃ってやろうなどと思ったのだろう。そして、どうしてそれをヤマドリは感付いたりなんかしたのだろう。こいつ適当言っているな。まあいい、どうでも。と思っているうちにヤマドリはライチョウに変わってしまった。巨大なライチョウになってしまった。忙しい奴だ。

ライチュウに進化しました」

 よくわからないユーモアを挟んでくる。ポケモンGOのやりすぎだろうか。第一、今2016年7月31日でありポケモンGOが日本配信されたばかりで、大国家アメリカ様に右ならえ!とばかりに社会問題を伴う大ブームとなっているが、この自主本『拒絶の乱交ファービィ 第二集』が配布されるころにまだそのブームは続いているのだろうか。とっくに時代遅れの話題となっていそうな気がする。そもそも、この自主本と銘打った糞のクソ煮込みもどきを俺はいつ配布するのだろうか。誰に、どういう手段で。ああ、俺は本当に何をやっているのか、いつもいつも部屋で夜になるとわからなくなって陸に急激に上げられた深海魚が浮袋を吐き出してしまうように空気のゲロみたいなやつが、こみ上げて、魂なのか俺は魂を吐き出そうと夜な夜な悩んで無駄に悩んでどうにもならない、というのにこの先俺には何も起こらないとなぜ信じて慎ましく生きることに専念できないのかクソ生きたくない死んでしまうのが怖いが生きたくないひたすらに生きる気がない山登りだ。そうだ、山登りだ。俺は山を登っていたのだった。今やライチョウ乗りになってしまったけれども。ライチュウとか言ってるけれども。

ライチュウって今の子供達知ってるのかな。あれ一世代目とかに出てくるポケモンじゃんね。ポケモンGOやってる子供たち、ライチュウとかわかってやってんのかな」

ピカチュウは今でも第一線で頑張ってて知名度あるし、進化形のライチュウだって現代っ子知ってるんじゃないですか?ていうか、私ポケモンGOやってないのでwどういう層がやってるのか知らないですけどwwあれやる人の気が知れませんよねほんとにwwww」

 まさかのポケモンGOアンチのライチョウだった。流行り嫌いのライチョウ。しかも相当嫌なタイプだ。

 せっかく人語を介す鳥に出会ったというのに、それも初めてであるというのに、その初めてが流行りモノ嫌い押しつけ鳥だなんて、がっかりだ。押しつけ鳥、と思っていたらおしどりになってしまった。なっていない。勘違いだ。見間違えた。もう疲れた。疲れ目だ。結局大して、というか全く歩いていなかった訳だが、歩いた気にさせられたし、気が疲れた。気疲れ、気疲れ。俺は体どころか精神も弱い。鬱病だ。鬱病患者の洒落もどきだ。鬱病は嘘だ。疲れ目だ。疲れ目で幻覚を見てしまった。精神は関係ない。俺は鬱病じゃなかったんだ。良かった。

 それにしてもこのライチョウは飛び続ける。もうかなり高いところを飛んでいるが、それでもまだ高度を上げ続け、飛行を続ける。太陽が近くなった気がする。

「おいライチョウよ。どこまで行くのだ」

「決めていません。しかし、目標は高い方がいいといいますから……」

 なんと心を打つことを言うライチョウだ。感心させられる。俺もこうあらなくては。思えば、これまでの人生下を向いてしかいなかった。下を向いていたら地面にアリの這ったか何かの跡が面白い模様みたいに見えた気がして、これを見つけたのはきっと自分だけだと、せっせとスケッチをし続けていたら、気づけば歳ばかりくっていて、さてそのスケッチブックを改めて見てみると、どうにも何にも、何にもなっていない。つまらない線の羅列でしかない。折れたシャーペンの芯に気づかず腕で引きずっちゃってできた汚れと変わんないじゃん、みたいな時間をずっとずっと過ごしていたような気がする。それに比べ、このライチョウの言うことは素晴らしい。自分でもわからないくらい上を、高みを見ている。浅田真央ちゃんくらいすごい。

 にしても、これはちょっと高すぎる。息苦しくなってきた。山を登り始める前は高山病の心配もしていたのだが、もうそんなレベルじゃない。まじで酸素が薄い。苦しい。うう……、苦しい!

「だって、もう成層圏に突入していますもの」

 だって、じゃない。なんだよ成層圏って。どこの範囲かはっきり知らないよ。無知だから。白痴だから。白痴は違うか。とにかく、成層圏って何のことを言っているのだ、とスマホで調べてみた。ふむふむ。Wikipediaによると、

 

成層圏(せいそうけん、stratosphere)とは、地球の大気の鉛直構造において対流圏と中間圏の間に位置する層である。対流圏と成層圏との境目は対流圏界面(高度は極地で約8km、緯度が低くなるに従って高くなり赤道付近で約17km)、成層圏と中間圏との境目は成層圏界面(高度約50km)と呼ばれる。

 

ふむ。なるほど。そういうことか……、よくわかんない。もう少し読み進めてみよう。スワイプ、スワイプ……

 

成層圏の特徴

対流圏や中間圏では高度とともに温度が低くなるのに対して、成層圏では逆に、高度とともに温度が上昇する。

 

 高度とともに温度が上昇する……ねえ。なるほど。って、暑い!!!!暑いよ!!!!!!温度上昇してるよ!!!!!!そこまで上昇志向にならなくていいよ!!!!!!!!!!!無駄な意識高い系が一番嫌われるし、ダメな奴だろ!!!!銃殺するべき対象だろ!!!!!!!!!!!!!!!!!

「お日さん、お日さん。どうぞ私をあなたの所へ連れてって下さい。灼けて死んでもかまいません……」

 だめだ。こいつすっかり「よだかの星症候群(ヨダカ・シンドローム)」になってやがるし、実際によだかになってもいる。よだかに乗ってどこまでも。よだか醜っっ。気持わるっ。温度が上がるにつれてよだかの見かけだけじゃなく、俺の気分も悪くなってきた。吐きそうだ。酸素が薄いだけでなく、うだるような暑さなのだからな。吐いた。よだかがライチョウだったときにならって上を向いていたので、吐瀉物が逆流して喉につかえる。甲虫を飲み込んでもがき苦しむよだかのようだ。ああ、かぶとむしや、たくさんの羽虫が、毎晩僕に殺される……。いけない、俺まで「よだかの星症候群(ヨダカ・シンドローム)」にかかってしまいそうだ。俺は鬱病ではない。俺は先日心療内科に出向き、「鬱病統合失調症、薬物乱用の傾向、行為の是非を判別して行動する能力が低い傾向」の無さを示す診断書を医者に書いてもらっている。健全だ。まったくもって、胸を張って正常な精神を持っていると言える。お前なんかより、お前らなんかより、俺は、俺だけは、正常だ。正常なんだ、暑い…。温度は異常だが、俺は、正常だ。正常……。暑、正常……。暑正常、正常だ……。正常であるのに………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………正、……常………………………………………………………………………………………暑、、……………………………、い……………………………正常、……………………………………………………………………………………………………………………………暑っ、

 

 

 

 暑い。真夏にエアコンを切タイマー(2時間)かけて寝ると、起きたとき暑いね。汗だくだ。なんか変な夢も見たし。最近は起きてるより夢の方が楽しいからたくさん寝ていたいって思ってたくらいだったのに、久しぶりの悪夢だ。

 

 と、寝ぼけ頭で思いながら俺は脱水症状で体が硬直し、そのまま誰にも気づかれずに死んでしまった。

 

110

「もしもし、警察さんですか?バスをぶっ飛ばす、バス、バ、マジで、バスを、お前のバスを、ぶっ飛ばす、殺す、バスを、今すぐ、バスをぶっ飛ばす、バ、バスをぶっ飛、バス、バ、ブス、このドブスが、バスを、バスを、お前のバスを、俺の明日を、バス、女バス、バスを」

 

 

「もしもし、警察さんですか?家庭菜園おばちゃんにはやっぱ値段では勝てんやで~」

 

 

「もしもし、警察さんですか?幸せな人を“幸福”というあだ名をつけて虐めようと考えています。悩ましいのは、虐めの対象となる人物に、虐めの最中は虐めをやるわけですから、辛い思いをさせることができるのですが、その虐めの現場を離れた後、学校や職場から帰ってきた家の中で、虐められている最中の自分を思い出すとき、「いや、でも俺“幸福”なんだよな」と一人の時間に幸せを再確認させてしまうことです。本来虐められている人に無いはずの、心の安息ができてしまうのです。それだと、虐めとは言えません。そんな馬鹿正直に“幸福”だなんてあだ名をつけなければいいのでは、とお思いになられるでしょうが、嘘までついて他人を虐める人は幸せといえるでしょうか?虐める側の人とは、虐めの対象となる人物より、幸せで無いといけないのです。私が虐めたいのは、幸せな人です。しかし、私の方が幸せで無いと、虐めが虐めでなくなってしまいます。幸せな人は、虐められっ子ではありません。嘘をつくいじめっ子は、幸せではありません。このことが示すのは、私たちは、『幸せ』を、完全に潰しきることは決してできないということです。『幸せ』は、それを奪おうとする人から、涼しげな顔で、すり抜けるようにして逃げて行ってしまいます。私はなんとなく、切なくなります」

 

 

「もしもし、警察さんですか?すべての原発を再稼動させて、すべての原発に核ミサイルを撃ち込みましょう。もう、それしかみんなが納得する解決はないです!!」

 

 

「もしもし、警察さんですか?自殺のいいとこ取りをします。“早く…相談してくれていれば…………(泣)”」

 

 

「もしもし、警察さんですか?余計なお世話です!!!!」

 

「もしもし、警察さんですか?……(バンドやってる女の大学生がイベンターの男とよくわかんないけどツイッター上でもめてるところ、また見たいなぁ……)、あ、すみません。全然関係ないこと考えてました」

 

 

「もしもし、警察さんですか?“全くウケないから”という理由だけでツイッターのアカウントを消す人にだけにはなりたくないので、最近は大喜利の練習をしています。今日はその成果を見ていただきたく、お電話させていただきました。それでは早速、いきます。

 

お題『こんな警察官はいやだ』

 

答え『鳩山由紀夫を個人的に殺害している。鳩山由紀夫を個人的に殺害している。鳩山由紀夫を個人的に殺害している。鳩山由紀夫を個人的に殺害している。鳩山由紀夫を個人的に殺害している。鳩山由紀夫を個人的に殺害している。鳩山由紀夫を個人的に殺害している。鳩山由紀夫を個人的に殺害している。鳩山由紀夫を個人的に殺害している。鳩山由紀夫を個人的に殺害している。鳩山由紀夫を個人的に殺害している。鳩山由紀夫を個人的に殺害している。鳩山由紀夫を個人的に殺害している。鳩山由紀夫を個人的に殺害している。鳩山由紀夫を個人的に殺害している。鳩山由紀夫を個人的に殺害している。鳩山由紀夫を個人的に殺害している。鳩山由紀夫を個人的に殺害している。鳩山由紀夫を個人的に殺害している。鳩山由紀夫を個人的に殺害している。鳩山由紀夫を個人的に殺害している。鳩山由紀夫を個人的に殺害している。鳩山由紀夫を個人的に殺害している。鳩山由紀夫を個人的に殺害している。鳩山由紀夫を個人的に殺害している。鳩山由紀夫を個人的に殺害している。鳩山由紀夫を個人的に殺害している。鳩山由紀夫を個人的に殺害している。鳩山由紀夫を個人的に殺害している。鳩山由紀夫を個人的に殺害している。鳩山由紀夫を個人的に殺害している。鳩山由紀夫を個人的に殺害している。鳩山由紀夫を個人的に殺害している。鳩山由紀夫を個人的に殺害している。鳩山由紀夫を個人的に殺害している。鳩山由紀夫を個人的に殺害している。鳩山由紀夫を個人的に殺害している。鳩山由紀夫を個人的に殺害している。鳩山由紀夫を個人的に殺害している。鳩山由紀夫を個人的に殺害している。鳩山由紀夫を個人的に殺害している。鳩山由紀夫を個人的に殺害している。鳩山由紀夫を個人的に殺害している。鳩山由紀夫を個人的に殺害している』」

 

 

「もしもし、警察さんですか?おたくの生活安全課の職員の方、死相が暴れ出ていましたけど、大丈夫ですか?心配になってしまいます」

 

 

「もしもし、警察さんですか?現在登録されている請求方法に対して再度の処理を試みましたが、問題が解消されていません。処理の試行を繰り返しても問題が解消されない場合、Apple Music 個人メンバーシップ登録の自動更新に支障をきたす可能性があります。登録の中断を防ぐために、請求先情報を変更してください。請求先情報の変更方法については、以下のリンク先を参照してください。

https://support.apple.com/HT201266

今後ともよろしくお願いいたします」

 

 

「もしもし、警察さんですか?はとむぎ、拳銃、月見草~♪」

 

 

「もしもし、警察さんですか?初めて入る中古エロビデオ屋の店主が、フレンドリーだなんてことがあるんですね。入店してまず、「結構久しぶりじゃない?」と言われて、私はとうとうエロビデオ屋の常連客と間違えられるようになったのか、と相当に落ち込んでしまいました。18歳未満の立ち入りを禁ずるカーテンの手前、カモフラージュに普通の映画のVHSの棚が置かれているあの定番のコーナーに、『他人の空似』という題の物がありましたので、嫌味を込めてそれをレジに持って行ってやろうかと思いましたが、びっちり埃と蜘蛛の巣でありましたので、やめにしました。代わりに、同じ棚のところにあったウィノナ・ライダーの出演する映画を購入しました。新品で300円でした。「300円で、消費税入れて、340円ね」と、なぜかその店だけ消費税が約13%になっていましたが、もうなんかめんどくさくて、言われる通り300円と、消費税だという40円を払って、エロビデオでもなんでもない、ウィノナ・ライダー出演の只の青春映画だけが入っている袋を片手に、エロビデオ屋から退店しました。あそこ、普通に裏ビデオ売ってたので早くガサ入れした方がいいですよ。家に帰って買ったVHSを再生したら、死ぬほどつまらなくて10分程で見るのをやめてしまいました。映画が吹き替え版であることに気がつかなかった私も悪いのですが、主人公の男の声がクリリンと一緒なのがどうしても耐えられなかったのです。それで私は、なんだか今日という1日に疲れてしまって、重たい心身でビデオの取り出しボタンを押したのですが、出てきません。ガーッガガッという音だけして、出てこない、ビデオが出てこないのです。ビデオデッキも壊れてしまいました。私より先に壊れるなんて。この糞、糞のためひっくり返し、自転車泥棒も盗まれるし、もうどうでもいいや、どうでもいい。この世に生まれた事実を少しだけ睨みつけて、この街で拳銃を持っている身近な存在である、あなたの後ろに今、居ます。お願いです、楽に死なせてくれませんか?『太陽にほえろ!』なら、スカパーの一挙放送でこないだ全部見たんですから。ビデオ屋になんて二度と行ってやるもんですか」

 

「もしもし、警察さんですか?速やかに死ね」

 

 

「もしもし、警察さんですか?私の家の近所のお祭りでは、水素水で作ったたこ焼きを売っているそうです」

 

 

「もしもし、警察さんですか?わたし、医療・福祉の専門学校でスペシャリストを目指そうと思います」

 

 

「もしもし、警察さんですか?ある免許の申請に伴い、心療内科統合失調症うつ病の有無に関する診断書を書いてもらいに行ったんです。診察はというと簡単なもので、喉元の触診や眼球をちょっと光で照らして見る程度で、想像していたような会話形式の問診やチェックシートの質問に回答するといったようなこともありませんでした。お医者も「まあ、普通に大丈夫だよね笑」とわたしの正常さをはなから疑っていない様子。では最後に注射痕がないかだけ腕を見せてくれるかな?とのことに、「注射痕てww」となりながらいいですよと腕をまくるとびっくり、そこには幾千ものおびただしい注射針の形跡が。そうです、昨晩ペプシのキューカンバー味が不味くて不味くて、本当に飲めなくて、たまらず血管に直接の摂取方法に切り替えて500mlを消費したことを思い出しました。わたしは滝のような汗を流しながら必死に医師へその旨を伝えると、「あれ、まっじいよね笑」とだけ言い"異常なし"の診断書を書いてくださりました。私は、本当に周りの人に恵まれていて、幸せな人生であることを改めて思います。全ての縁に感謝します。ご公務お疲れ様です」

 

 

服屋

近所のアウトレット服屋でしか服を買わない。正月にしか行かない。俺は正月にしか服を買わない。その店は毎年三が日に福引セールをやっていて、会計の際にガラガラ回すやつができるのだが、そのガラガラ回しで見事当たりを引くと、なんとレジに持っていった商品が全品無料となるのである。店内にいると、結構な頻度で店員が大当たりの鐘を鳴らすのが聴こえるので、やたら当たりを出していることが分かるのだが、いざ実際に自分が鐘を鳴らされると笑ってしまう。全部タダでーす!と元気よく言われる。真面目に商売をしろよ、と新年早々おめでたい気持ちになる。そこで買った膝下くらいまである軍服風の緑色のコートがあって、購入当時に髪が肩下くらいまであったので、変質者を装えるという理由で気に入っていたのだが、自分はよく上着を失くすので(なぜ?)、例に漏れずそのお気に入りのコートも紛失してしまっていたが、最近になって知人の家から発掘した。現在は正気が戻って一般成人男性より少し短めくらいの髪型なので、超ロングの軍服コートを着ると増して気狂いの印象となると思うので外を歩くのが楽しみである。他にも冬に着るコートをいくつかその店で購入していて(アウトレットだからアホみたいに安い)、これまた一目惚れした皮物のコートを買って気に入って着ていたが、こちらは知人のバンドマンに、ライブハウスに置き忘れていたところをまんまと盗まれた。同い年の、女にモテるバンドマンに、アウトレット服屋で買った激安のコートを盗まれてしまった。そのイベントでは、DJが音楽をかける時間にクラフトワークのザ・ロボッツを流して主旋律をみんなで合唱しながら踊るノリが発生していて(あの曲歌あるんだからそういうのやるなら歌詞を歌えよ)、本当に気分が悪くなって自律神経が失調してしまい、真冬の帰り道で寒さを感じることができずコートを忘れたのに気がつけなかったのがいけなかった。本当に悔しい。俺は悔しい時に近所の自衛隊駐屯地に侵入する妄想をよくする。小学生のときに、規定より低空で行われている自衛隊の飛行訓練に対してのかなり長文な抗議文が小学生らしい筆跡で校区中の壁や地面に書き殴られていたのを覚えているが、その筆者と噂されていた発達障害の同級生も何か悔しい思いをしていたのであろうか。犯罪は、私たち悔しい思いをする側のためにあると思う。声を上げることのできる者たち、ザ・ロボッツの主旋律をグループで歌い騒ぐことのできる者たち、国防訓練に伴う爆音をむやみに垂れ流す者たちの物では決してない。騒ぐのが好きなだけの奴らは、大衆居酒屋の大部屋から出てこないでほしい、君たちはそれで事足りるのだから(飛行訓練はできないけど)。はなから間違った立場での行為なのだから、君たちの窃盗に私が過剰報復で返すことも、十分道理が通るはずである。突き止めて絶対に右左翼共に反撃の犯行を、正義の立場の犯罪を、目には目をの窃盗で、自衛隊駐屯地から盗み出した銃で、俺は……

戻りたいとき

 戻りたいときと言われても、……はい。あります、ありました。あれは中学生だったときのクリスマスでしょうか。コンビニにファミチキを買いに行ったんです。夜更けに、いやあれは正月か、正月でした。年越したすぐの深夜に近所の神社へお神酒をもらいに行って、その帰りにファミマへ寄ってファミチキを買ったんです。あれは年越しでした。クリスマスなんかでは全然ありませんでした。すみません。初めてファミチキを食べました。母の言いつけを守る方で、買い食いなんか強く禁じられていたものですから、コンビニでホットスナックを自分で買って食べるなんてほとんどなかったですから。おいしくも不味くもなく、ああ油だなあとただ思いました。あれより油を感じたことは後にも先にもないと思います。自分がちょうどいいところに収まった感覚がありました。何を言っているのでしょうか。今なんか自分がよくわかりませんが、当時は余計なことを考えていなかった分まだ明晰な意識があったと思います。ある種まどろみの中にいたのでしょうが、若いということはそういうことなのかもしれませんが、やはりあの明晰さはまどろみなのだと思います。混じり気なくぼやけると、そこではある意味での明快な「印象」が立ち現れてくるものです。

 世の中には嘘の思い出で生きている人がたくさんいますから、何も起こっていない人生を歩んでいる私ですが、実のところ噛み締めるに値する思い出を持ち合わせているのはこちらの方なのではないかと思ってしまいます。人と騒がなくてよかった。人と話すとそれだけの分脳みその中が、思考が漏れ出して自分の頭の中が薄まってしまいます。他人の流入を許してしまうこともあるし、門を開けるということはよほどのことがないとしてはなりません。私の記憶の中には、私が歩んだ私が、ぼやけた鮮明さで残留しています。いつだって一人の思い出ばかり残っていますが、邪魔者がいないという点で安心があります。

 いや、一人きりということに例外があって、歩んだと言って思い出したことがありますが、私は弟が一人の二人兄弟なのですが、弟とは5つ離れているのですが、私が小学校低学年かそこらの頃、その弟を連れてマンションの周りを散歩したことがあります。昔は一部屋を購入して、マンション住まいだったことがありました。8階でした。父親が一応一流企業といえるところで働いておりました。リストラされてしまったのですが、その同時期に母が内職を始められたときに、イライラした様子で私に弟を散歩に連れ出すように命じた様子を、なぜだかよく覚えています。その散歩ではネジを二つ拾い、一つを弟にあげて、しばらく進むとそのネジに対応するワッシャーをまた二つ拾い、またその一つを弟にあげて、二人で一個ずつでよかったねと笑い、マンションの周りをぐるり一周するだけでしたが、当時の私たちには小冒険でした。戻りたいといえば、平穏でありますからそうともいえるかもしれませんが、思い出にとどめておきたいという気持ちもあります。走馬燈というものがあるとしたら、その際に映ってくれれば、それはそれでいいかもしれません。思い出だけの映像にあって欲しいと思えるというのも、幸せなものです。私はそう思います。この先も、そんな記憶を形成していくように、私の時間を進行していきたいものです。

 

孝行息子

親の勧めた学校へ進学し、

親の勧めた勉学や習い事をし、

親の勧めた仕事へ就き、

給与の一部を家に納め、

親の勧めた見合い相手と結婚し、

親の勧めた人数の子供を作り、

親に献身的な介護をし、

親の死に目に立ち会い、

私に対しての感謝を述べながら息絶えゆく親の姿に涙し、

そうして行われる親の葬式で、

 

 

げらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげら

 

笑いながら喪主を務めたかった。

 

 

孝行息子として過ごしてこなかったからできなかった~~

残念!